ウイスキーに合うチョコレートは、カカオの割合だけでは決まらない
バーで「チョコレートも一緒にどうぞ」と出されるのは、たいてい板チョコの小片だ。ウイスキーに合わせるなら、ミルクより濃いほうがいい。70%、いや85%くらいなら、香ばしさも重なるはずだ——そう考えたことがある人は多いと思う。
ところが、チョコレートと飲料の組み合わせを実際に人に評価させた研究では、いちばん濃いチョコレートの評価がいちばん低かった。
定番であることと、条件を問わず好まれることは違う
2012年に発表された探索的な消費者試験では、80人の参加者が18種類の飲料と、カカオ含有率30%、70%、99%の3種類のチョコレートを組み合わせて評価している。組み合わせの好ましさには有意な差があり、99%のチョコレートとの組み合わせは、30%や70%より総じて好まれなかった。
この試験に含まれたウイスキーは1製品だけだが、30%と70%のどちらでも低評価側にあり、参加者間の評価のばらつきも大きかった。
ここから「ウイスキーはチョコレートに合わない」と逆向きの結論を引き出すのは早い。使われたウイスキーは一つで、研究自体も予備的なものだ。それでも、定番として語られていることと、どんな条件でも好まれることは別の話だとは言える。
「カカオ70%」は、味の設計図ではない
では、濃さの目安を精密に読めばいいのか。ここでもう一段、足元が崩れる。
日本の表示規約でいう「カカオ分」は、カカオマスやココアパウダーだけでなく、脂肪であるココアバターも含めた合計として定義されている。つまり、70%という数字は、苦味や焙煎香の強さを直接示す目盛りではない。
同じ70%でも、ココアバターと無脂肪カカオ固形分の比率、砂糖量、加工条件は同じとは限らない。その違いは、感じ方にも表れる。
ミルクチョコレートの官能試験では、砂糖の少ない配合ほど苦味とロースト感が強く、多い配合ほど甘味やバニラ、キャラメル的な印象が強かった。また、同じカカオ分70%・砂糖30%で総脂肪量の異なる試料を比べた2023年の研究では、総脂肪量が高い試料ほど苦味、カカオ感、口の中の乾いた感じが弱まり、甘味が強く知覚されている。
数字が同じでも、甘さ、脂質、苦味、香ばしさは同じ位置には並ばない。
共通する香りより、「どちらが勝つか」
チョコレート側を細かく見られるようになっても、まだ足りない。相手を一種類だと思っているからだ。
16種類のウイスキーを官能評価した研究では、キャラメルやトフィー、バニラ、桃、フェノール、スモーク、果実、花など、複数の香り属性がウイスキー間の違いに関わっていた。ウイスキー側にも、単数形の味わいはない。
ならば、香りの共通点を探せばいいとも考えたくなる。ウイスキーにもチョコレートにもバニラやロースト香がある。だから合う——という説明は聞き心地がいい。
だが、食材間で共有される香気成分から相性を予測する考え方は、2020年の批判的レビューで、好まれる組み合わせを一般に予測する方法としては支持されていないと整理されている。共通する香りは成立の一因にはなりうるが、保証ではない。
先の2012年の試験でも、チョコレートの風味が飲料を上回った組み合わせでは、受容度の低下が概して観察された。似た香りがあるかだけでなく、どちらが前に出るかも無視できない。
%より、四つの軸で見る
実用上は、甘味と苦味・渋味、脂質と口どけ、香りの方向、そして双方の強さの釣り合いを見るほうがいい。
チョコレートは甘味と苦味のどちらが前に出るのか。脂質は口どけや香りの感じ方をどう変えているか。果実香や焙煎香は、そのウイスキーと重なるのか、対照になるのか。そして、一方がもう一方を覆っていないか。
これは科学的に確立された正解表ではなく、複数の研究をつないだ見方にすぎない。官能評価には個人差があり、先の試験でもアルコール度数の高い飲料では参加者の評価が割れやすかった。
それでも、この四つを通すと問いの形が変わる。「ウイスキーに合うチョコレートはどれか」ではなく、「この一杯とこの一片は、互いの何を伸ばし、何を隠すのか」になる。
売り場でカカオの割合を見るのをやめる必要はない。その数字は出発点であって、答えではない。原材料表示で砂糖がどこにあるか、栄養成分表示で脂質がどの程度かまで目が動いたとき、板チョコは急に、ウイスキーと同じくらい情報量の多い相手に見えてくる。