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SPIRITS JOURNAL

ジンと寿司・刺身は合う? ワインで魚が生臭くなる理由と蒸留の関係

ジンと寿司・刺身は合う? ワインで魚が生臭くなる理由と蒸留の関係

ジンと寿司は合うのか|ワインで魚が生臭くなる「鉄」と蒸留の関係

2001年、メルシャンの研究所で、一人の研究者が自分の夕食を実験台にした。数か月のあいだ毎晩同じワインを用意し、日替わりのおかずと合わせて、生臭さが立つ組み合わせを探したという。最後に残ったのは、ホタテの干物だった。

魚介とワインを一緒に口にすると、ときどき不快な生臭さが立つ。魚そのものの臭いではない。二つが口の中で出会ったときに生まれる臭いだ。この研究はやがて、その原因を一つの金属に絞り込んだ。答えが分かると、寿司にジンを合わせる理由も、香りの相性とは別のところから見えてくる。

生臭さを生んでいたのは、ワインの中の鉄

研究グループは、赤ワイン38本、白ワイン26本を含む69本をホタテの干物と合わせ、生臭さの強さを官能評価で調べた。生臭さと強く相関していたのは、ワインに含まれる鉄の総量と、二価鉄イオンの濃度だった。三価の鉄イオンとの相関は見られなかった。

分かったのは相関だけではない。鉄を含まないモデルワインに二価鉄イオンを加えると生臭さが強まり、赤ワインの鉄をキレート剤で封じると弱まった。この結果は2009年、米国化学会の学術誌に発表されている。

口の中で起きているのは、脂質の酸化だ。ワインの二価鉄イオンが魚介の脂質の酸化を進め、(E,Z)-2,4-ヘプタジエナールなどの魚臭い成分を短時間で生む。鼻をクリップでふさぐと生臭さを感じなかったことから、正体は味ではなくにおいだと確かめられた。生臭さは魚の問題というより、皿とグラスが出会ったときに起きる反応だった。

「魚には白」は、色ではなく鉄の経験則

この研究は、「魚には白ワイン」という古い経験則にも説明を与えた。研究を紹介した米国化学会の発表は、赤ワインと魚で生じる生臭さを、赤ワインにもともと含まれる鉄によるものとしている。

ただし、経験則の本体は色ではない。研究者は、鉄の少ない赤ワインなら魚介とも合いうるとしている。ワインの鉄はブドウ畑の土壌や、生育中、醸造中の混入から入り、産地の国とは相関しなかった。栓を開けずに鉄の量を予測するのは難しい。

日本のワインにも手がかりがある。研究者は、甲州ブドウのワインには統計的に鉄が少ないという報告に触れ、寿司や刺身と相性がよい一因と考えている。そう考えると、「魚には白」は、鉄の少ないワインを外さずに選ぶための近道だったと読み直せる。

蒸留は、鉄を蒸留器の中に残す

ジンに目を移そう。鉄のような金属は揮発しないため、蒸留しても蒸気と一緒に上がってこない。

EUの規則では、蒸留ジンは度数96%以上の農産物由来アルコールを、ジュニパーなどの植物とともに蒸留してつくる。ロンドン・ジンはさらに、蒸留後に水とごくわずかな甘味料以外を加えられず、着色もできない。ボタニカルの香りは蒸気に乗って移り、鉄は蒸留器の側に残る。日本食品標準成分表でも、ジンの鉄は「(0)」と記され、含まれていないと推定される成分として扱われている。

もっとも、蒸留酒の金属を調べた研究では、製造設備や、度数を調整するための加水から金属が入りうることも指摘されている。家庭でつくられた蒸留酒は、工業的に製造されたものより金属が多かった。蒸留後に果汁や甘味を加えたジンも、同じ前提では語れない。ジンは鉄が入りにくい酒であって、鉄がゼロだと保証された酒ではない。

もう一つ、断っておくべきことがある。ジンと魚介を合わせて同じ試験をした研究は、確認できた範囲では見当たらなかった。言えるのは、ワインで起きる生臭さの主な原因を、ジンは製法の上で持ち込みにくい、というところまでだ。

ジンは臭みを消すのではなく、臭みを作らない

寿司や刺身は、この違いがいちばん表に出やすい料理でもある。同じ研究グループは、オリーブオイルを加えると生臭さが抑えられることを確かめ、和食の魚介料理が天ぷらを除いて油をあまり使わない点に注目している。油で覆われない生の魚は、鉄の影響を受けやすい皿だ。

日本酒は、別の理由から同じ条件を満たしている。酒造りでは、鉄が酒の色を濃くし、香りと味を損なうため、鉄分の少ない水が好まれてきた。成分表でも、清酒の鉄は微量(Tr)にとどまる。刺身に日本酒という組み合わせも、少なくとも鉄の点では理にかなっている。

ただし、ジンが魚の臭いそのものを消すわけではない。鮮度の落ちた魚の臭いは、どの酒を合わせても残る。ジュニパーや柑橘の香りが魚の臭いを覆うかどうかも、研究では確かめられていない。

次に寿司屋で一杯目を選ぶとき、ワインを飲んで生臭さが気になったら、魚の鮮度を疑う前に、グラスの中の鉄を疑ってみてもいい。ジンソーダを頼むのは、香りの好みの話である前に、口の中で余計な反応を起こさない選択でもある。ジンは魚の臭みを消す酒ではなく、臭みを新しく生まない酒だ。

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