「100%アガベ」のテキーラは何も足していない? 規格が認める4つの添加
テキーラの棚でいちばん目立つ文字は、たいてい「100% de agave」だ。アガベ以外の糖を混ぜずに造った酒。そう読んで手に取る人は多いはずだし、その読み方は間違っていない。
けれど、この100%が何を数えた数字なのかを確かめると、話は少し変わる。メキシコの公式規格は、100%アガベのテキーラにも、仕上げの段階でごく少量の調整を認めている。しかも、その調整をラベルに書く義務はない。
「100%」が数えているのは、発酵の手前の糖
テキーラの公式規格NOM-006-SCFI-2012は、テキーラを二つのカテゴリーに分けている。「100% de agave」と、単に「Tequila」と名乗るものだ。違いは、発酵させる前の糖液であるモストに、どんな糖を使ったかにある。
「Tequila」では、糖分のうち最大49%をアガベ以外の糖でまかなえる。「100% de agave」は、ブルーアガベ以外の糖で補っていないことを示す。規格はこの配合を、発酵の前に行う工程として定めている。
これから見る調整は、蒸留や熟成を終えた後、瓶詰めの前に行われる。工程の時間軸に並べると、二つは離れた場所にある。「100%」は発酵の手前で数えた数字であり、蒸留の後に起きることまでは数えていない。
規格の内側にある四つの「アボカード」
規格には「アボカード(abocado)」という言葉が定義されている。テキーラの風味を和らげる目的で、次の四つのうち一つ以上を加える手続きのことだ。
- カラメル色素
- オークの天然抽出物
- グリセリン
- 砂糖を主体にしたシロップ
上限は、瓶詰め前のテキーラの総重量に対して1%。解説記事では「容量の1%」と書かれることもあるが、条文は重量で定めている。生産者には使った原料を記録する義務がある。一方で、規格が定めるラベルの表示事項にアボカードは含まれていない。テキーラ規制委員会(CRT)も2023年の声明で、使用を表示する義務はないと説明している。
1%は小さな数字に見える。ただ、これはあくまで上限で、実際に何をどれだけ使ったかは瓶の外からは分からない。
ウイスキーと比べると、この規定の性格がよく分かる。EUの規則では、ウイスキーに加えてよいのは水と、色の調整に使うプレーンカラメル(E150a)だけで、味を丸めるための甘味付けも認められていない。ウイスキーなら定義から外れてしまう甘さや口当たりの調整が、テキーラでは規格の内側に置かれている。
線が引かれているのは、ラベルの「クラス」の行
では、ボトルのどこを見ればいいのか。手がかりは「100%」のすぐ近くにある。テキーラのラベルには、カテゴリーと並んでクラスの表示が義務づけられている。ブランコ(プラタ)、ホベン(オロ)、レポサド、アネホ、エクストラ・アネホの五つだ。
規格は、このクラスの定義のなかでアボカードの扱いを書き分けている。ブランコは「アボカードなし」の製品と定義され、蒸留後に加えるのは原則として度数を整えるための水だけとされる。ホベンは、ブランコに熟成テキーラを混ぜたもののほか、ブランコにアボカードを施したものもこの名で呼べる。ラベルの「Oro」や「Gold」は、熟成を示す言葉とは限らないということだ。レポサド、アネホ、エクストラ・アネホは、いずれも「アボカードを施しうる」製品とされている。
規格がアボカードの不使用を言い切っているのは、五つのクラスのうちブランコだけだ。
読み違えやすい点もある。熟成クラスに認められているのは添加の「可能性」であって、熟成テキーラがすべて添加を受けているわけではない。ブランコも二か月未満なら樽に触れることが認められているため、わずかに色づいているだけで添加を疑う理由にはならない。香りや味を付けた製品は別の枠組みで扱われ、加えた風味や色の名前をラベルに記す必要がある。
「添加物不使用」とラベルに書けない理由
2020年ごろから、この見えない調整に光を当てる動きが広がった。テキーラの評価サイトTequila Matchmakerが、分析と官能評価にもとづいてアボカードを使っていないブランドを確認し、一覧を公開し始めたのだ。「additive-free(添加物不使用)」は、バーや酒販店でも選ぶ基準の一つになっていく。
CRTの対応は揺れた。2023年には自らadditive-freeの認証マークを打ち出し、パトロンは同年10月にその認証を受けたとしている。ところがCRTは2024年1月、第三者がadditive-freeを「認証」「確認」することは消費者を誤認させると表明した。CRTによれば、同年8月にはメキシコ当局もこの表示をラベルに使えないと判断し、連邦消費者保護庁(PROFECO)は誤解を招く表現だとした。2025年3月には、CRTが確認プログラムの運営団体を米国の連邦地裁に提訴している。
CRTの主張はこうだ。アボカードにあたる成分は製造工程のなかで自然に生じうるため、不使用を科学的に証明する方法はない。たしかに樽熟成では、木から色や香りの成分が酒へ移る。一方、業界の一部からは、大手の蒸留所に配慮した対応だという批判も出ており、議論は2026年に入っても続いている。
ここで思い出したいのは、規格がもともと「100% natural」や「100% reposado」といった表現を、誤認を招くものとして名指しで禁じていることだ。テキーラのラベルは、何が入っていないかではなく、どの基準を満たしたかを語るための書式になっている。
だから、ボトルを手に取ったら「100%」の次に、クラスの一語を読む。ブランコなら、規格の上ではアボカードが入り込む余地はない。熟成クラスなら、甘さやバニラのような丸みが樽から来たのか、仕上げで足されたのかは、ラベルだけでは決められない。その先を知りたければ、生産者が自分の工程をどこまで公開しているかを確かめることになる。
同じ生産者のブランコとレポサドを飲み比べるのも一つの方法だ。ブランコをその蒸留所の基準線として置くと、熟成クラスで加わったものの輪郭が少し見えやすくなる。
「100%」は、発酵の手前までを保証する数字だ。その先の工程を読む鍵は、すぐ隣の、もっと小さな文字に書かれている。