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SPIRITS JOURNAL

ウイスキーは開封後に酸化するのか|味が変わる二つの仕組み

ウイスキーは開封後に酸化するのか|味が変わる二つの仕組み

ウイスキーは開封後に酸化するのか|味が変わる二つの仕組み

半年ほど棚に置いていたボトルから注いでみると、開けた日ほど香りが立たない。理由を探せば、たいてい同じ言葉に行き着く。酸化だ。

酸化は、酸素が関わる化学反応の名前である。開けたボトルの中で起きていることを一つずつ確かめていくと、この一語には性質の違うものがいくつも詰め込まれている。

「酸化」の一語に詰め込まれたもの

ニッカウヰスキーのブランドを持つアサヒビールは、2019年の取材で開封後の変化を三つ挙げていた。中身が減って空気に触れる部分が増えること。瓶と栓のわずかな隙間からアルコール分が抜けること。そして酸化が進むことだ。メーカー自身の説明も、酸化だけを原因にしているわけではない。

英語圏でも事情は似ている。ウイスキーの解説サイトには、oxidationを、開けたボトルの質がゆっくり落ちていく現象全般を指す緩い総称だと定義しているものもある。

整理すると、開封後の変化は二つに分けられる。成分がボトルの外へ出ていく変化と、ボトルの中で成分が別の物質に変わる変化だ。酸化は後者の一部にすぎず、開封後の変化そのものの名前ではない。

栓を開けるたびに、香りを含んだ空気が入れ替わる

ウイスキーの香りの成分は、液体の中にとどまっていない。栓との間の空気にも少しずつ出ていき、閉じたボトルの中では、液体と空気の間の行き来がやがて釣り合う。

栓を開けて注ぐと、その空気の一部が部屋の空気と入れ替わる。空気中に出ていた成分は、そのままボトルの外へ持ち去られる。栓を戻せば、液体は再び成分を空気へ送り出し、釣り合いを取り直す。開けるたびに、これが繰り返される。

エタノールも同じ動きをする。蒸留が成り立つのと同じ理由で、液面の上の空気は液体よりもエタノールの割合が高い。入れ替わりのたびに度数はわずかに下がる方向へ動くが、一回あたりの変化はごく小さい。

この「出ていく変化」を大きくするのは、残量だ。中身が減るほど空気の部分は広がり、一度に入れ替わる量も増える。理屈の上では、変化の進み方は、開けてからの日数だけでなく、空気がどれだけ、何度入れ替わったかで変わる。 ただし、実際のボトルで香りの成分がどれだけ失われるかを追った研究は、今回の調査では見つからなかった。

グラスに注いでからの数分間に起きることは、ボトルの中とは時間の尺度が違う、また別の話になる。

酸素は、そこにあるだけでは働かない

では、酸化は起きていないのか。そうとも言い切れない。半分飲んだ700mlのボトルなら、空いたおよそ350mlは空気で、そのうち70mlほどは酸素だ。量だけを見れば、決して少なくない。

とはいえ、酸素は液体に溶けただけで、すぐに酒の成分と反応するわけではない。研究の蓄積があるワインでは、次のような道筋が知られている。溶けた酸素が鉄や銅といった微量の金属によって活性化され、フェノール類との反応を経て過酸化水素ができる。そこから生じる強い酸化剤が、エタノールをアセトアルデヒドに変える。赤ワインに鉄や銅を加えると、酸化の過程で生じるラジカルの検出量がはっきり増えることも、実験で示されている。酸化の速さは、酸素の量だけでは決まらない。

ウイスキーの瓶の中で、この反応がどれほどの速さで進むのかを測った研究は、調べた範囲では見当たらない。手がかりになるのは、樽の中で進む熟成の話だ。ケンタッキーのヘブンヒルは、熟成庫の下段・中段・上段に置いた三つの樽に溶存酸素計を組み込み、数年がかりで測定を続けている。マスターディスティラーのコナー・オドリスコルによれば、液体が酸素を取り込む速さは極めて遅く、意味のある量になるのは何年もの熟成を経てからだという。開けたボトルで液体に溶け込む酸素もごくわずかだ、というのが彼の見立てだ。一方で、ほとんど空のまま1〜2年置いたボトルなら、味が変わる理由は十分にあるとも話している。

瓶の中で成分が変わったとしても、それが酸化とは限らない。ポーランドの研究チームは、ライ麦とプラムの蒸留液を度数40〜70%に加水し、ガラス栓で密閉した瓶に入れて暗所で8週間保存した。すると、アセトアルデヒドは減り、代わりにアセタールやエステルが増えた。著者らはこれを、アルデヒドとアルコール、酸とアルコールがそれぞれ結びつく反応で説明している。どちらも酸素を必要としない反応だ。

もっとも、これは樽熟成を経ていない蒸留液を加水した直後の結果で、瓶詰めされたウイスキーにそのまま当てはまるとは限らない。それでも、瓶の中の化学変化をすべて酸化と呼ぶのは乱暴だということは言える。

「酸化した」と言う前に、何が減ったかを嗅ぐ

開封後の変化は、悪い方向ばかりでもない。開けてしばらくしてから良くなったと感じた、という愛好家の声は少なくない。出ていく成分の中に、なくなったほうが好ましく感じられるものが含まれていても不思議はない。

変化を遅らせたいなら、理屈は単純だ。ボトルの中の空気を減らし、入れ替えの回数を減らす。半分を切ったら小さな瓶に移す愛好家がいるのも、この考え方に沿っている。

次に、半分ほど残ったボトルを久しぶりに注ぐときは、「酸化した」で片づける前に、何が変わったのかを確かめてみたい。開けた日に前へ出ていた香りが引いたのか。アルコールの刺激が和らいだのか。それとも、別の香りが顔を出したのか。

開けたボトルの中で動いているのは、化学反応だけではない。 「酸化」という一語をほどけば、半分残ったボトルは劣化した残りものではなく、開けた日からの空気の出入りを映した一本に見えてくる。

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