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SPIRITS JOURNAL

ラムはストレートが「本来の味」? 加水で香りが変わる理由

ラムはストレートが「本来の味」? 加水で香りが変わる理由

ラムはストレートが「本来の味」なのか。加水で変わる香りの見え方

グラスに注いだラムに、水を一滴も落とさない。氷も入れない。そうすれば、ボトルに詰められたものがそのまま口に届くはずだ——この考えは、直感としてはよくできている。何も足さなければ、何も失われない。

ただ、ここには一段飛ばされた前提がある。組成を変えないことと、香味を正確に感じ取れることは、同じ意味なのだろうか。

「本来の味」は、何を正確にしたいのかで変わる

ストレートには、はっきりした利点がある。ボトル時点のアルコール度数(ABV)と成分の比率をそのまま保つため、余計な条件を加えずに製品を比べられる。基準としては、これ以上に扱いやすい条件はない。

問題は、「本来の味」という言葉が、実際には三つの別々のものを指して使われていることだ。ボトルの中身をそのまま知ること。香りをできるだけ多く感じ取ること。自分の好みに合うこと。この三つは重なることもあるが、必ず一致するわけではない。

ストレートが確実に守っているのは、一つ目である。

20%まで薄めても、ラムの輪郭は単純には半減しなかった

2018年、イリノイ大学の研究チームが、市販のラム2種を使った官能評価をおこなっている。用意されたのは、40% ABVの元のラム、水で20% ABVまで薄めたもの、そして40% ABVを保ったまま香味成分の濃度を半分にしたもの。蒸留酒の官能評価経験を持つ8人が、22℃で23項目を評価した。

水で薄めた試料は、香味成分もエタノールも半分になっている。素直に考えれば、感じられる香味も相応に落ちるはずだった。

ただし結果はそうならなかった。水で20%まで薄めた試料は、多くの項目で強度がやや下がったものの、香味のプロフィールは元のラムとよく似ていた。むしろ大きく離れたのは、度数を40%のまま保って香味成分だけを薄めたほうだった。

香味成分の量だけでは、感じられるラムの輪郭を説明しきれない。

もちろん、2製品・8人という限られた規模の研究であり、すべてのラムに同じことが起きるとは言えない。それでも、単純な「半分に薄めれば、香味も半分になる」という考えでは説明しにくい結果だった。

水が変えるのは、ラムの濃度だけではない

なぜこうなるのか。手がかりは、水を加えたときに減るもう一つのもの——エタノールにある。

2024年に発表された蒸留酒のモデル実験では、鼻に届く気体中のエタノール濃度が高くなるほど、香気物質を検出するための閾値が高くなる傾向が示された。つまりエタノールは、香気物質が液体から出てくる過程だけでなく、嗅覚側の「検出しやすさ」にも関わっている。個々の香気物質を調べた探索的な実験であり、完成したラムの香味全体を測ったものではないが、仕組みを考えるうえでは示唆的だ。

水を加えるという操作は、観察する対象を薄めると同時に、それを感じ取る条件も動かしている。

「何も足さなければ情報を失わない」という直感が崩れるのは、この点にある。エタノールは味わう対象の一部であると同時に、香りの感じ方を左右する条件でもある。

だからといって、「水を足すほど分かる」わけでもない

ここで反対側へ振り切りたくなるが、そちらにも根拠はない。

2023年のウイスキー研究では、加水によってヘッドスペース中の濃度が下がる香気成分もあれば、上がるものもあった。さらに、水を20%より多く加えていくと、同じスタイルの中で個々のウイスキーを区別する差が小さくなる傾向も報告されている。ウイスキーの結果をそのままラムに当てはめることはできないが、少なくとも「薄めるほど本質に近づく」という直線的な関係は支持されていない。

温度も同じである。「冷やせば香りが閉じ、温めれば開く」と言われがちだが、2024年にウイスキーとニュートラルスピリッツでTCA由来のカビ臭・湿った段ボール様の異臭を調べた研究では、5℃の試料のほうが約20℃より異臭を検出しやすかった。これは特定の欠陥臭を見つけるための研究であって、ラム全体の香味に最適な温度を示したものではない。

何を見つけたいかによって、望ましい条件は変わる。

ストレートの絶対視を崩したところで、加水や特定の温度が新しい正解になるわけではない。

グラスの中のラムは、液体だけで完結していない。度数も温度も、味わう対象であると同時に、味を見るための条件でもある。次に同じ一本をストレートと加水で飲み比べるとき、問うべきなのは「どちらが本来か」ではなく、いま自分が、ラムのどの側面を見ているのかのほうだ。

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