飲み方・知識
SPIRITS JOURNAL

ラムコークとキューバ・リブレの違い|ライム10mlが足す酸と香り

ラムコークとキューバ・リブレの違い|ライム10mlが足す酸と香り

ラムコークとキューバ・リブレの違い|ライム10mlが足す酸と香り

ラムをコーラで割り、ライムを搾ればキューバ・リブレ。搾らなければラムコーク。日本語で読める説明の多くは、二つの違いをこの一点で片づけている。

ところが英語の辞書を引くと、線の位置がそろわない。米国の辞書はキューバ・リブレを「ラムとコーラの飲み物」とだけ定義し、英国のコリンズ英語辞典はライム果汁と氷までを含めている。

名前とライムの結びつきは、思われているほど固くない。それでも、ライムを搾った一杯と搾らない一杯は、飲めば別の飲み物に感じる。コーラにはもともと柑橘の香りも酸味もある。そこへ10mlほどの果汁を足すと、何が変わるのか。

ライムの仕事は、果汁と皮に分かれている

バカルディが1960年代に広告で使った証言では、最初のキューバ・リブレはバカルディのラムとコカ・コーラでできていたとされ、ライムは出てこない。ところが同じバカルディが2010年代に出した広報文では、最初の一杯にフレッシュライムが搾られている。

ライムの役割をはっきり書いた人物に、米国の作家チャールズ・H・ベイカー・ジュニアがいる。1939年の著書で、彼はこの飲み物が南部から北部や西部へ広がっている様子を記し、どう作っても甘すぎると書いた。そこで示した改良版では、小ぶりのライム1個分の果汁と、搾ったあとの皮をグラスに入れる。皮をつぶして油をグラスの内側に行き渡らせ、氷を入れてから冷えたコカ・コーラで満たす。

いまの国際バーテンダー協会(IBA)の規定では、ホワイトラム50ml、コーラ120ml、ライム果汁10mlを氷入りのグラスで合わせ、くし切りのライムを添える。

ベイカーの処方でもIBAの規定でも、ライムは果汁と皮の二つの形でグラスに入っている。果汁は酸を、皮は香りを運ぶ。ラムコークとキューバ・リブレの差は、この二つを足すかどうかに分けて考えると見えやすい。

コーラの酸は、強いのに酸っぱさが前に出にくい

コーラは酸性の強い飲み物だ。米国で市販の飲料を測定した研究では、コカ・コーラのpHは2.37だった。ペプシコの特許文献も、コーラは一般にリン酸とクエン酸でpH2.5〜2.8に調整されると説明している。米国のコカ・コーラは原材料にリン酸を挙げている。一方、日本の表示は「酸味料」という一括名なので、どの酸を使っているかはラベルから分からない。

酸っぱさの強さは、pHだけでは決まらない。米農務省の研究チームは、舌が酸味として受け取るのは水素イオンと、まだ電離していない酸の分子の両方だと整理している。酸味料メーカーの食品科学者によれば、リン酸は分子のまま残る割合が小さく、酸味がかなり弱い。クエン酸と比べても、酸っぱさは控えめになる。

これに大量の糖が重なる。日本のコカ・コーラは100mlあたり炭水化物が11.3gなので、IBAの比率なら120mlで約13.6gになる。甘味と酸味は、互いを抑え合う。ジントニックで、トニックの糖が苦味を和らげるのと同じ構図だ。ベイカーの「甘すぎる」という評は、この釣り合いが甘味の側に傾いていた、と読むことができる。

ライム果汁には、1オンス(約30ml)あたり1.38gのクエン酸が含まれる。10mlなら約0.47gだ。氷が融ける前のIBAの一杯(約180ml)に均すと0.26%前後になる。ペプシコの特許がレモン・ライム風味の飲料に示しているクエン酸の量(0.18〜0.24%)と同程度か、やや多い。しかもpHの低いコーラの中では、クエン酸は酸味を生む分子の形のまま残りやすい。ライムが足しているのは、液の酸性度というより、舌が感じる酸っぱさのほうだ。

搾りたての柑橘の香りは、瓶の中では長くもたない

コーラの香りにも、柑橘はもともと入っている。オレンジやライム、レモンの果皮油にシナモンやバニラを重ねるのが、一般的なコーラの骨格だ。コカ・コーラの配合は公開されていない。

ただ、清涼飲料の柑橘香は、酸性の液の中では長くもたない。ペプシコは2003年に出願した特許で、レモンやライムの香りは低いpHで主要な成分が分解し、香りが弱まって異臭が出ると書いている。通常のコーラにレモン・ライムの香料を足すだけでは、保存に耐える製品にならないという。比較用にpH2.74でつくったレモン・ライム風味のコーラは、7か月後に専門家のパネルから、香りが大きく崩れたと判定された。

レモンやライムらしさを担うシトラールは、酸性の条件で環化や酸化が進みやすい。柑橘の油の大半を占めるリモネンなどのテルペン類も、水に溶けにくく酸化しやすいため、飲料用には取り除く加工がよく行われる。その代わり、そうした油で香りをつけた飲料は平板な味になりやすい、という指摘もある。

搾りたてのライムの皮から出る油は、こうした加工も劣化も経ていない。冷圧搾したライムの果皮油は、およそ半分がリモネンで、γ-テルピネンやβ-ピネン、シトラールが続く。くし切りを搾れば、果汁と一緒にこの油もグラスへ飛ぶ。コーラの柑橘が保存のために整えられた香りなら、搾ったライムの皮は、その場でしか立たない香りだ。

同じラムとコーラで、三杯つくってみる

違いを確かめるなら、同じラムとコーラで三杯つくるといい。ライムなし、果汁10mlだけ、くし切りを皮ごと搾って沈めたもの。

一杯目と二杯目の差は、主に舌の上に出る。甘さが一歩引き、後味が締まる。二杯目と三杯目の差は、鼻へ抜ける香りに出る。グラスに顔を近づけたときの青い柑橘の匂いは、皮を搾ったときにはっきりする。

コーラの銘柄を替えるときは、裏ラベルの炭水化物の量を見ておくといい。酸の種類は「酸味料」としか書かれていなくても、甘さの量は数字で比べられる。甘いコーラほど、ライムの酸が受け持つ仕事は大きくなる。

ラムコークとキューバ・リブレを分けているのは、ライムという材料の名前ではない。コーラが瓶の中では保てない酸っぱさと、搾った瞬間にしか立たない香り。その二つをグラスの上で足すかどうかが、二杯の境目になる。

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