ジンとウォッカの違いはどこにある? 同じアルコールから分かれる境界
棚に透明な瓶が二本並んでいる。一本はジン、もう一本はウォッカ。日本で売られているものなら、裏ラベルの品目欄にはどちらも「スピリッツ」と書かれているはずだ。
二つの違いを尋ねると、「ジンは、ウォッカにジュニパーで香りをつけたもの」という答えがよく返ってくる。半分は当たっている。ただ、この説明は二つの思い込みに支えられている。ジンはウォッカを経由して造られる、という思い込み。そして、ウォッカは香りのない酒だ、という思い込みだ。
EUと米国の規則を並べてみると、二つの酒の境界は、香りの有無とは別の場所に引かれていることが分かる。
出発点は、どちらも96%のアルコールでいい
EUの規則では、ウォッカもジンも「農産物由来のエチルアルコール」から造ると定められている。農産物を発酵させて蒸留し、アルコール度数を96%以上まで高めたもので、原料に由来する味以外は感じられないことが条件だ。
米国の規則では、二つの距離はさらに近い。ウォッカは、95%以上で蒸留した「ニュートラルスピリッツ」の一種として定義される。ジンは蒸留で造る方法に加えて、ニュートラルスピリッツをジュニパーなどと混ぜて造る方法も認められている。「ジンはウォッカに香りをつけたもの」という説明には、こうした制度上の下地がある。
それでも、EUの条文を細かく読むと、両者の出発点は完全には重ならない。ウォッカに使うアルコールには、メタノールの上限を一般の基準より厳しくする条件が付いている。上限は純アルコール1ヘクトリットルあたりで決められていて、一般の基準が30グラムのところ、ウォッカは10グラムまでだ。区分としての「ジン」には、この上乗せがない。一方で、ジンの中でも製法の条件が細かいロンドンジンでは、上限は5グラムまで下がる。
ジンは、ウォッカを一度経由して造られる酒ではない。同じ種類のアルコールから出発し、それぞれに別の条件を課された二つの酒と見るほうが、規則の書き方に近い。
ウォッカは「無味無臭の酒」と定義されていない
ウォッカは香りのない酒だと思われやすい。だがEUの規則が求めているのは、原料や発酵で生まれた成分の個性を「選択的に減らす」ように蒸留することで、消し去ることまでは求めていない。
条文には、ウォッカに特別な香味の特徴を与えてよいとも書かれている。ただし、ひとつの香りが主役になってはいけない。加えてよい香料も、発酵させた原料の蒸留液にもともと含まれる天然のものに限られる。着色は認められず、甘味は1リットルあたり8グラムまでだ。
米国では2020年まで、ウォッカは「際立った特徴、香り、味、色を持たない」ものと定義されていた。原料や味わいが多様になった現状に合わないとして、この一文は同年の規則改正で削除されている。
二つの規則を重ねると、ウォッカに禁じられているのは香りそのものではなく、原料の外から持ち込んだ香りを主役にすることだと分かる。柑橘などの香りを主役にすれば、その酒はEUでは「フレーバードウォッカ」という別のカテゴリーに移る。
ジンの条件は、ジュニパーが「入っている」ことではない
ジンの側では、条件が反対向きに書かれている。EUの規則では、ジンは農産物由来のエチルアルコールをジュニパーベリーで香りづけした酒で、味わいは主としてジュニパーでなければならない。米国でも、主な特徴的な風味をジュニパーベリーから得ることが求められる。
ウォッカが「原料以外の香りを主役にしてはいけない酒」なら、ジンは「ジュニパーを主役にしなければならない酒」だ。
EUには、その中間に「ジュニパー風味のスピリッツ」という区分もある。ジュニパーの特徴は、弱められていても感じ取れればよい。四つを並べると、境界の位置がはっきりする。