カシャッサとラムの違い|同じ搾り汁が別の酒になる場所
アメリカで売られているカシャッサは、ラベルに「Cachaça」と書いても「rum」と書いてもよい。米国の規則が、カシャッサをラムの一種であり、同時にブラジル固有の産品でもあると定めているからだ。この規定が加わったのは2013年で、それまでの米国の分類ではカシャッサはラムと区別されず、「Brazilian rum」と表示された商品もあった。
ブラジルの規格を開くと、見え方が変わる。カシャッサは「ブラジルで造られたアグアルデンテ・デ・カーナ(サトウキビの蒸留酒)」だけに許される名前で、その定義にラムという言葉は出てこない。
カリブ海のマルティニークで造られるアグリコール・ラムも、カシャッサと同じくサトウキビの搾り汁から生まれる。同じ原料から出発した二つの酒は、どこで別の名前になるのか。
搾り汁から造ることは、境界線にならない
ラムの多くは、砂糖を取り出したあとに残る糖蜜を発酵させて造られる。カシャッサとアグリコールは、どちらもこの道を通らない。ブラジルの規格はカシャッサの原料をサトウキビ搾り汁の発酵液に限っている。マルティニークのAOCも、島で造るラムを搾り汁由来のアグリコールに限っている。
AOCを管轄するフランスの国立機関INAOによれば、マルティニークのサトウキビは砂糖の収率が低く、島の生産は砂糖よりラムへ向かった。EUの規則でも、ラムに「agricultural」と付けられるのは、搾り汁だけを原料とし、フランス海外県かマデイラの地理的表示と結びついたものに限られる。
原料だけを見れば、二つの酒は糖蜜ラムの反対側に並んで立っている。「搾り汁か糖蜜か」という物差しは、二つをラム全体から取り出すことはできても、二つを互いに分けることはできない。米国の分類が両者を同じラムの中に置くのも、原料の側から見れば不自然ではない。違いが表れるのは、発酵液を蒸留器に入れたあとだ。
分かれ目は、蒸留器から取り出す度数にある
マルティニークAOCの仕様は、連続式のカラムで蒸留し、出口の度数を65%以上75%以下に収めるよう定めている。米国の規則はラムの蒸留度数を95%未満、EUは96%未満としているので、それよりずっと低い位置で止める蒸留だ。INAOは、この低い度数での蒸留が独特の香りを引き出すと説明している。
単式蒸留のカシャッサでは、さらに低い度数の部分を取り分ける。研究者の報告によれば、銅の単式蒸留器で最初に出る「頭(カベッサ)」はおおむね70〜50%で、続く「心臓部(コラソン)」は50%前後から38%前後まで。カシャッサとして瓶に詰められる38〜48%の幅と、ほぼ重なる高さだ。
ブラジルの規格の書き分けにも、この性格が表れている。54%超70%未満の蒸留液(destilado alcoólico simples)を薄めて造る道は、より広い分類であるアグアルデンテ・デ・カーナの側にだけ書かれている。カシャッサの必須原料は「搾り汁の発酵液を蒸留したもの」だけだ。エタノール以外の副成分の合計についても、上限と並んで下限が定められている。
ただし、すべてのカシャッサが単式蒸留で造られるわけではない。規格は単式以外の蒸留法も認めている。「Cachaça de Alambique」と表示できるのは、銅の単式蒸留器だけを使い、生のサトウキビ(cana crua)の搾り汁から造った場合に限られる。
同じ搾り汁から出発しても、どこまで濃くしてから瓶に向かうかが、二つの酒の最初の分かれ目になる。
「48%まで」という上限が、名前の範囲を決める
米国とEUのラムの規則は、瓶詰めの度数について下限しか定めていない。米国は40%以上、EUは37.5%以上で、上限はない。
カシャッサには上限がある。瓶に詰める度数は38%以上48%以下で、この幅を外れると、同じブラジル産のサトウキビ蒸留酒でもカシャッサとは名乗れない。54%までなら、アグアルデンテ・デ・カーナとして売ることになる。
この度数の「窓」は、国境を越えると別の窓と重なり合う。米国ではカシャッサもラムとして40%以上での瓶詰めが求められる。そのため、ブラジルで38%のカシャッサとして売られている酒は、米国では「Cachaça」と表示できない。TTB(米国酒類タバコ税貿易局)は、こうした商品を「diluted Cachaça(薄めたカシャッサ)」などとして表示する道を示している。
カシャッサという名前は、原料と産地だけでなく、度数の窓にも結びついている。その窓の形は、ボトルがどの国の棚に並ぶかによって変わる。
木の名前を書くのはブラジル、オークしか数えないのは米国
熟成の扱いにも、制度の違いが出る。マルティニークAOCでは、木で12か月以上育てたものが「élevé sous bois」、3年以上熟成したものが「vieux」になる。vieuxは島内での瓶詰めまで求められる。
カシャッサの規格は、樽の樹種を限っていない。容量700L以下の木製容器で1年以上熟成した原酒が半分以上入っていれば「envelhecida(熟成)」と表示できる。全量が1年以上熟成していれば「Premium」、3年以上なら「Extrapremium」だ。樽は新しいものでも、ほかの飲料に使ったものでもよい。そのかわり、貯蔵や熟成に使った木の名前は、商品名と同じ大きさ以上の文字でラベルに書かなければならない。市販品を調べた研究でも、オークのほか、アンブラーナ、バウサモ、ジェキチバーといったブラジルの木の樽が使われていた。
米国の年数表示は、この自由さをそのままは受け入れない。米国の規則でいう「年数」は、蒸留から瓶詰めまでにオーク樽で貯蔵された期間を指す。2013年の規則の説明でTTBは、オーク容器で熟成していないカシャッサには年数を表示できないと述べていた。
ブラジルでは木の名前を書くことが求められ、米国ではオーク以外の木で過ごした時間は年数に数えられない。同じ一本でも、どの国のラベルで読むかによって、熟成について伝わる情報が変わる。
飲み比べるなら、先に度数をそろえる
ここまでの違いの多くは、ボトルの上で確かめられる。ブラジル産の「Cachaça」なら、度数が38〜48%の幅にあるか、「de Alambique」の表示があるか、木の名前がどう書かれているかを見る。アグリコールなら、マルティニークAOCの表示と、blanc、élevé sous bois、vieuxの区分が手がかりになる。
二本を並べて飲むときは、度数の差にも気をつけたい。エタノールは香りの感じ方そのものに関わる。度数の違う二本をそのまま比べると、原料や蒸留の違いより先に、度数の違いを感じ取っているかもしれない。少しずつ水を加えて同じくらいの度数にそろえれば、比べる条件が近づく。
同じサトウキビの搾り汁から出発した二つの酒を分けているのは、サトウキビそのものではない。蒸留器の出口の度数と、ラベルに引かれた線の位置が、二つに別々の名前を与えている。