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SPIRITS JOURNAL

スコッチの産地区分は税金の線から|6大産地と法律上の5地域

スコッチの産地区分は税金の線から|6大産地と法律上の5地域

スコッチの産地区分は、税金の線から始まった

グラスゴーの北20数キロ、ダムゴインの丘のふもとにあるグレンゴイン蒸留所の前を、アバフォイルへ向かう道路が横切っている。ハイランドとローランドを分ける線は、ちょうどこの道路の下にある。蒸留器があるのは線の北側で、樽を寝かせる熟成庫は道路を渡った南側だ。それでも、ボトルに記される産地は「ハイランド」になる。

道路一本を挟んで、酒の性格が切り替わるわけではない。この線は、いつ、何のために引かれたのか。そしてラベルの産地名は、いま何を約束しているのか。

「ハイランド」は、地形より先に税の区分だった

ハイランドとローランドを分ける線を最初に引いたのは、1784年のウォッシュ法(Wash Act)である。当時のハイランドでは小さな蒸留器による密造が広がり、政府は税を取りきれずにいた。そこで法律は、線の北側に別の税制を用意した。小さな蒸留器を前提に、税はその容量に応じて課す。原料は地元で採れた穀物に限り、できた酒を線の南へ運ぶことは認めない。南側では、蒸留する前の発酵液、つまりもろみ(ウォッシュ)の量に税がかけられた。

北への緩い扱いには、密造者を合法の側へ呼び込む狙いもあった。ただ、効果は限られていたようだ。1798年、線の北の認可蒸留所は58か所を数えたが、その生産量はスコッチ全体の8%に届かなかったとされる。当時、北の酒の評判を高めていたのは、むしろ山あいの小さな密造蒸留器でつくられた酒だった。

線はその後も1785年、1793年と引き直され、1797年から数年間は中間地帯まで置かれた。そして1816年の法改正で、北と南の税の差は撤廃される。法律上の「ハイランド」は、30年あまりで役目を終えていた。

線が消えたあとも、呼び名は味の通称として残った

税の差がなくなっても、北と南の酒がすぐに同じものになったわけではない。北の酒は、小さな蒸留器と大麦麦芽でつくる重く力強い酒として語られた。南の大規模な業者は、課税を抑えるために発芽させていない穀物を混ぜた。蒸留器の容量に税がかかった時期には、浅い釜で短時間に蒸留を繰り返す方法も広がっている。1830年代以降は、連続式蒸留機による軽い酒も加わった。

当時語られた北と南の違いの多くは、気候や土壌というより、蒸留器や原料といったつくり方の違いだった。そのつくり方を左右していたのが、北と南で異なる税制である。

呼び名は、やがて酒の性格を伝える通称になっていく。スペイ川流域の一帯は、かつて「グレンリベット」の名でくくられることがあった。その名の使用をめぐる長い争いを経て、「スペイサイド」という呼び方が定着する。アイラとキャンベルタウンは、ピートの効いた力強い酒の産地として、スモーキーなブレンドをつくる側に重宝された。

1980年代にシングルモルトが見直されると、地域の地図はさらに細かく描き直される。1988年、ユナイテッド・ディスティラーズ(現ディアジオ)は「クラシックモルト」と題して6本のシングルモルトを発売し、それぞれをスコットランドの代表的な六つの地域の顔として打ち出した。選ばれた地域は、ハイランド、スペイサイド、ローランド、アイラ、ウェストハイランド、アイランズ。キャンベルタウンは入っていない。同社がそこに蒸留所を持っていなかったからだ。日本の解説でよく見る「6大産地」は、ウェストハイランドを数えず、キャンベルタウンを入れた別の六つである。産地の数そのものが、誰が地図を描くかで変わってきた。

2009年、産地名は再び法律に書き込まれた

地域の名前が改めて法律に入ったのは、2009年のスコッチウイスキー規則でのことだ。規則は五つの名前を保護している。

  • 保護地域(region):ハイランド、ローランド、スペイサイド
  • 保護地区(locality):アイラ、キャンベルタウン

これらの名前をラベルや広告に使えるのは、そのウイスキーがその土地で蒸留された場合に限られる。条件になるのは蒸留した場所で、熟成した場所は問われない。グレンゴインが道路の向こうで樽を寝かせても「ハイランド」を名乗れるのは、このためだ。

境界の重なり方も、よく見る産地地図とは少し違う。スペイサイド、アイラ、キャンベルタウンは、いずれもハイランド地域の内側にある。生産者はどちらの名前を使うか選べるので、スペイサイドにありながら、マッカランのように「ハイランド」と表示してきた銘柄もある。「6大産地」のアイランズは、規則上の地域ではない。ただし、オークニーのような実在の地名なら、そこで全量を蒸留していれば同じように表示できる。

規則は、地域ごとの味の型を定めていない。スコッチウイスキー協会(SWA)の法務責任者も、地域名は品質の違いでスコッチを分けるためのものではなく、評判を持つ地名を誤用から守るためのものだと説明している。2009年の規則が守っているのは、味の型ではなく、地名の信用だ。

次にラベルの産地名を見るとき

産地ごとの傾向が意味を失ったわけではない。アイラにピートの強い酒が多いことには、燃料としてのピートの歴史が重なっている。ただ、傾向は保証ではない。アイラのブルックラディは、看板商品の「ザ・クラシック・ラディ」をフェノール値0ppmのノンピートでつくっている。冒頭のグレンゴインも、ピートを焚かずに麦芽を乾かすハイランドだ。ピートを効かせたスペイサイドもあれば、新しいローランドの蒸留所は軽やかさにとらわれない酒を試している。

香りの手がかりは、産地名の隣にある。ピートの有無、樽の種類、熟成年数。熟成した場所の影響を考えるなら、見るべきは産地名ではなく、倉庫の温度や湿度といった条件の方だ。

「ハイランド」は、もともと税を取るために引かれた線の名前だった。いまボトルに書かれたその一語が告げているのは、味の予告ではない。産地名は、蒸留器の住所だ。 住所からは、その土地の酒が歩んできた歴史が読める。グラスの中身は、隣に並ぶ情報と自分の舌で確かめればいい。

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