ラムの「種類」は、同じ物差しで並んでいない
酒販店のラム売り場には、ホワイト、ダーク、アグリコール、ジャマイカン、スパニッシュといった言葉が並んでいる。どれも「ラムの種類」として説明されることが多い。
ところが、WSETの旧版Level 2 Spirits仕様書では、Darkは色、Spanish (Cuban)は生産伝統、rhum agricoleは表示用語として、別々の項目に置かれていた。同じ棚に並ぶ言葉が、もともと同じ物差しから来ていない。
同じ棚に並ぶ呼称でも、物差しは同じではない
「ラムの種類」という一語は便利すぎる。色を指す語、原料や表示に関わる語、産地の名前、歴史的な生産伝統をまとめた語が、その下で横並びになる。
横並びである以上、どれか一つを選べば他は消える——そう読みたくなるが、一本のラムが同時に複数の呼称に当てはまることは珍しくない。
現行のWSET Level 2 Spirits仕様書も、ラムを一つの種類表にはまとめていない。原料、蒸留、熟成、仕上げ、地域、表示語といった異なる項目に分けて整理している。一覧の中で正しい位置を探すより、その言葉が何を基準にしているかを先に見た方が早い。
アグリコールは、原料だけでも蒸留器だけでも読めない
アグリコールは製法の名前だと思われやすい。サトウキビの搾汁から造る、糖蜜を使わない。出発点はたしかにそこにある。
ただ、EUの規則でラムに「agricultural」という語を付けられるかどうかは、原料だけでは決まらない。サトウキビジュースを原料とすることに加え、所定の製造条件を満たし、フランス海外県またはマデイラの地理的表示と結びついていることが条件になる。原料の話であり、同時に制度と場所の話でもある。
そして、EU上の「agricultural」という条件自体は蒸留器の型まで指定しない。一方、Martinique AOCでは連続式のカラム蒸留器について仕様が定められている。「サトウキビジュースだからポットスチル」という連想は、ここで切れる。
マルティニークの中を見ても、blanc、élevé sous bois、vieuxという熟成による区分が別に用意されている。原料、制度、産地、蒸留、熟成は、それぞれ別に読むしかない。
ダークという色から、熟成年数は逆算できない
色は誰でも確認できる。だからこそ、濃い色を長い熟成の証拠として読みたくなる。
しかし米国の現行のラム規格に、Dark Rumという固有のタイプは置かれていない。EUの規定でもdarkは独立したラムのカテゴリーではなく、一方で色調整のためにカラメルを加えることは認められている。色を動かす工程は、樽だけではない。
現行のWSET仕様書も、カラメル着色と活性炭による濾過を、それぞれ仕上げ工程として示している。色は観察できる。だが色から、年数も蒸留器も原料も読み取れない。
産地名と「スタイル」は、同じ種類の言葉ではない
ここまでは、軸が違うという話だった。もう一段ある。呼称によって、そこから確実に読み取れる情報の量そのものが違う。
Jamaica Rumは、香味より先に産地の名前
ジャマイカンラムと聞けば、強い香り、ハイエステル、ポットスチルといった連想が先に来る。
ただ、少なくともJamaica Rumという名称について、ジャマイカ知的財産庁は地理的表示の例として挙げ、ジャマイカで造られるものだと説明している。まず地理と制度に結びついた言葉であり、香味そのものの分類名ではない。
Spanish styleは、法的なタイプより整理語に近い
スパニッシュスタイルは性格が違う。WSETの旧版仕様書では、Spanish (Cuban)を色や表示語とは分け、「production tradition」の一つとして整理していた。一方、現行版ではSpanish / French / Britishという三分法を同じ形では採用していない。
つまり、法的なラムのタイプというより、歴史的な生産のまとまりを理解するための整理語として使われてきた。Jamaica RumのようなGIは制度で境界が引かれ、Spanish styleは生産伝統を整理する言葉として機能する。
ラムの呼称は、同じ種類ではない。原料、蒸留と熟成、色と仕上げ、産地と制度、歴史的な生産伝統。別々の座標から付いた名前が、同じ棚で重なっている。
次の一本を手に取るとき、問いは「これは何の種類か」ではなくなる。この言葉は何の軸を語り、何については何も言っていないのか。
ラムの豊かさは、分類表が複雑なことではなく、一本を複数の座標から説明できることにある。